1, 感染症・食中毒の予防・まん延防止の基本的考え方
特別養護老人福祉施設は、感染症等に対する抵抗力が弱い高齢者が生活する場であり、こうした高齢者が多数生活する環境は、感染が広がりやすい状況にあることを認識しなければなりません。
このような前提に立って施設では、感染症・食中毒を予防する体制を整備し、平素から対策を実施するとともに、感染予防、感染症発生時には迅速で適切な対応に努める必要があります。
施設の感染症・食中毒の発生、まん延防止に取り組むにあたっての基本理念を理解し、施設全体でこのことに取り組みます。
注意すべき主な感染症
介護施設において、予め対応策を検討しておくべき主な感染症として、以下のものが挙げられます。
(1)入居者(利用者)及び職員にも感染が起こり、媒介者となりうる感染症
集団感染を起こす可能性がある感染症で、インフルエンザ、新型コロナウイルス、感染性胃腸炎(ノロウイルス感染症、腸管出血性大腸菌感染症等)、疥癬、結核等。
(2)健康な人に感染を起こすことは少ないが、感染抵抗性の低下した人に発生する感染症。
高齢者介護施設では、集団感染の可能性がある感染症で、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(MRSA感染症)、緑膿菌感染症等の薬剤耐性菌による感染症があります。
(3)血液、体液を介して感染する感染症
基本的には、集団感染に発展する可能性の少ない感染症で、肝炎(B型肝炎、C型肝炎)等があります。
2、感染症・食中毒の予防・まん延防止の基本的方針
(1)感染症及び食中毒の予防及びまん延防止の体制。感染症及び食中毒の予防及び まん延防止のための、担当者を定め、委員会を設置する等施設全体で取り決めます。
(2)平常時の対応
① 施設内の衛生管理
当施設では感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のため、施設内の衛生保持に努めます。又、手洗い場、トイレ、汚物処理室の整備と充実に努めるとともに、日頃から整理整頓を心がけ、換気・清掃・消毒を定期的に実施し、施設内の衛生管理、清潔の保持に努めます。
② 介護・看護ケアと感染症対策
介護・看護の場面では、職員の手洗い、うがい、手指消毒、うがいを徹底し必要に応じてマスクを着用します。又、血液、体液、排泄物・嘔吐物等を扱う場面では細心の注意を払い、適切な方法で対処します。利用者の異常の兆候をできるだけ早く発見するために、利用者の健康状態を常に注意深く観察することに留意します。
③ 面会者・外来者への衛生管理の周知徹底を図りまん延防止に努めます。
(1)発生時の対応
万一、感染症及び食中毒が発生した場合は、「厚生労働大臣が定める感染症または食中毒が疑われる際の手順」に従い、感染の拡大を防ぐため下記の対応を図ります。
① 発生時の状況把握
② まん延防止のための措置
③ 有症者への対応
④ 関係機関との連携
⑤ 行政への報告
施設長は次のような場合は迅速に市町村等の主管部局に報告するとともに、所轄の保健所への報告を行い発生時対応等の指示を仰ぎます。
* 報告書式は都道府県、市町村の指定様式とします。
<報告が必要な場合>
ア. 同一の感染症若しくは食中毒による又は、それらによると疑われる死亡者又は重篤患者が1週間内に2名以上発生した場合
イ. 同一の感染症若しくは食中毒による又はそれらが疑われる者が10名以上又は全利用者の半数以上発生した場合
ウ. ア及びイに該当しない場合であっても、通常の発生動向を上回る感染症等の発生が疑われ、特に施設長が報告を必要と認めた場合
* イについては、同一の感染症などによる患者等が ある時点において10名以上又は全利用者の半数以上発生した場合であって、最初の者が発生してからの累積の人数ではないことに注意。
<報告する内容>
ア. 感染症又は食中毒が疑われる利用者の人数
イ. 感染症又は食中毒が疑われる症状
ウ. 上記の利用者への対応や施設における対応状況等
* 尚、医師が感染症法、結核予防法又は食品衛生法の届出基準に該当する利用者又はその疑いのある者を診断した場合は、これらの法律に基づき保健所等への届出を行う必要があります。
3、感染症・食中毒まん延防止に関する体制
(1)感染症対策委員会の設置
① 設置目的
感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための対策を検討するため、感染症対策委員会を設置します。
② 感染対策担当者
次の者を感染症対策担当者とします
看護職員 医務主任
③ 感染症対策委員会の構成員
ア.施設長 カ.通所介護担当職員
イ.生活相談員 キ.居宅介護支援担当職員
ウ.医務主任 ク.南部地域包括センター職員
エ.管理栄養士 ケ.医師(必要に応じて参加を要する)
オ.介護職員
④ 感染症対策委員会の開催
委員会は概ね 1月1回以上開催します。その他、必要な都度開催します。
⑤ 感染症対策委員会の主な役割
ア. 感染症予防対策及び発生時の対応の立案
各指針・各マニュアル等の作成
各感染症の予防マニュアル・各感染症対応マニュアル・清掃マニュアル・食中毒予防マニュアル等の指針・マニュアルの更新・整備
イ.発生時における施設内連絡体制及び行政機関、各関係機関への連絡体制の整備
ウ.利用者・職員の健康状態の把握と対応策
エ.新規利用者の感染症の既往の把握と対応策
オ.感染症、衛生管理に関する基礎知識に基づいた研修の実施(年2回)
カ.業者などへの感染症及び食中毒まん延防止のための指針の周知
キ.各部署での感染症対策実施状況の把握と評価
⑥ 職員の健康管理
ア.直接介護で夜勤に携わる職員は年2回(レントゲンは年1回)他職員は年1回の健康診断を実施する。
* インフルエンザワクチンや新型コロナウイルスワクチンの予防接種について、接種の意義、有効性、副作用の可能性等を職員へ十分に説明の上、同意を得て予防接種を行います。
イ.職員が感染症を罹患している場合は、感染経路の遮断のため完治まで 適切な処置を講じます。
4、感染症・食中毒の予防、まん延防止における各職種の役割
施設内において感染症・食中毒の予防、まん延防止のためのチームケアを行う上で、各職種がその専門性に基づいて適切な役割を果たします。
【施設長】 ・ 感染症、食中毒の予防、まん延防止体制の総括責任
・ 感染症発生時の行政報告
・ 感染症発生時の状況把握及び指示
【事務長】 ・ 感染症発生時の状況把握及び備品整備
【看護職員】・ 医師、協力病院との連携を図る
・ 感染症対策委員会総括責任者
・ ケアの基本手順の教育と周知徹底
・ 職員への衛生管理、安全管理の指導
・ 外来者への指導
・ 予防対策への啓発活動
・ 早期発見、早期予防の取り組み
・ 経過記録の整備
【生活相談員】
・ 医師、看護職員との連携を図り、予防、蔓延防止対策強化
・ 緊急時連絡体制の整備(行政機関、家族等)
・ 発生時及びまん延防止の対応
・ 経過記録の整備
・ 家族への対応
【管理栄養士】 ・ 食品管理、衛生管理の指導
・ 食中毒予防の教育、指導の徹底
・ 医師、看護職員の指示による利用者の状態に応じた食事の提供
・ 緊急時連絡体制の整備(保健所各関係機関)
・ 経過記録の整備
【介護職員】・ 各マニュアルに沿ったケアの確立
・ 生活相談員、看護職員、管理栄養士等との連携
・ 利用者の状態把握
・ 衛生管理の徹底
・ 経過記録の整備
5、感染症・食中毒まん延防止に関する職員教育
当施設の職員に対し、感染対策の基礎的内容等の知識の普及や啓発とともに、衛生管理の徹底や衛生的なケアの励行を目的とした「感染症の予防及びまん延の防止のための研修」及び「訓練(シュミレーション)」を感染症対策委員会の企画により、次の通り実施する。
(1)新規採用者に対する研修
新規採用時に、感染対策の基礎に関する教育を行う
(2)定期的研修
感染対策に関する定期的な研修を定期的(年2回以上)に実施する
(3)訓練(シュミレーション)
施設内に感染症が発生した場合に備えた訓練を定期的(年2回以上)に実施する。
6、感染症対策マニュアル及び事業継続計画の整備
(1)感染症対策マニュアル
感染症発生及びまん延を防止するため、対応の詳細を記載したマニュアルを作成し、定期的に見直しを行う。特に毎年流行する「インフルエンザウイルス」や「新型コロナウイルス」、「ノロウイルス」についてはそのマニュアルごとの対策を確実に実施する。
また、世界的なパンデミックが発生した未知なる新型ウイルス等の対策についても必要であればマニュアルの整備を行う。
(2)事業継続計画
新型インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス等、未知なる感染症が国内に流行した又は施設内にまん延が起こった場合であっても、入居者・利用者が安全・安心してサービスの提供が受けられるように事業継続計画を作成し、定期的に見直しを行う。
7、感染症予防の徹底
インフルエンザやノロウイルス等の平常時対策として、以下を徹底する。なお、地域感染まん延時等の対策については、感染症対策マニュアルを参照する。
(1) 職員の標準予防策の徹底
県内や地域に感染症発生の情報がない場合でも、冬季や感染症まん延時期には以下の標準予防策を実施する。
①出勤時の手洗い・うがい・手指消毒、出勤前の検温
②勤務中のマスク着用
③1ケアごとの手洗い・手指消毒
④体調不良時の早期報告・出勤停止
⑤ワクチン接種
(2) 入居者・利用者への呼びかけ
入居者・利用者へも感染予防のために以下のお願いをする。ただし、調や障害等の状況で不可能な場合は、無理に行うことはしない。
①飲食時の手洗い・うがい・手指消毒
②デイサービス・ショートステイ利用時の検温・手洗い・手指消毒
③利用時のマスク着用
④体調不良時のデイサービス・ショートステイ利用中止
⑤ワクチン接種
(3) ご家族及び来荘者への呼びかけ
①入館時の手指消毒・マスク着用
②体調不良時の入館制限
8、感染症まん延防止の徹底
職員又は入居者・利用者が感染症に罹患した場合、施設内まん延を防ぐため、以下の対策を行う。なお、詳細については、感染症対策マニュアルを参照する。
(1)職員の規定された日数の出勤停止。
(2)嘱託医と相談し、必要であれば所轄保健所へ連絡する。デイサービス・ショートステイ利用者の規定された日数の利用停止。
9、感染症・食中毒まん延防止に関する指針の閲覧について
この指針は、各部署に配布し、いつでも自由に閲覧することができます。
この指針は、入居者(利用者)及び家族の求めに応じていつでも施設内にて閲覧できるようにするとともに、当施設のホームページ上に公表し、いつでも利用者及び家族が閲覧できるようにする。
平成19年 4月 1日から施行
令和 5年 5月 1日改正施行